記録

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T君とラジオ

実家に帰ってきている。帰ってきているというか東京での生活はもうまもなく終わり、これから実家で生活することとなる。開かれた窓の外からは水の張られた田んぼが見え、ゲコゲコと鳴く蛙の声と水路を流れる水の音が聞こえる。雨上がりのひんやりとした空気が部屋に入ってくる。東京よりもだいぶ涼しい。

地元で生活するのは10年ぶりだ。毎日気晴らしに近所を散歩している。相変わらずラジオは聴いていて、いつどこにいたってこの習慣が消えることはない。つい先日の『爆笑問題カーボーイ』を聴きながら高架下をくぐると、ふと中学の同級生のT君を思い出した。T君は違うクラスであったが帰る方向が同じということもあり、いつの間にか一緒に下校することが多かった。彼は決して良い人ではなかった。他人への態度は横暴だし空き家の柱を蹴飛ばしで半壊させるなどよく悪さをしていた。しかし勉強はできたので周囲の人もあまり口出しをできないようだった。そのせいもあり、T君は浮いていて同じクラスに友達がいなかった。だから違うクラスの自分が一緒によく帰っていた。中学3年生の時、T君は先ほどくぐったこの高架下で高齢者が運転する車に轢かれた。轢かれたといっても軽くぶつかった程度で怪我もしていない。しかし、彼はその高齢者に病院代という名目で数万円をもらい、そのお金でiPodを買った。T君は下校中、ひと通りiPodの自慢をした後、podcastの『爆笑問題カーボーイ』が面白いと教えてくれた。ちょうど自分もiPod nanoを親に買ってもらったばかりだったので聴いてみるとそれはもうくだらなくて面白かった。配信されているのはコーナーだけで、特に「人妻枠」というコーナーのしおふきんちゃんは今でも鮮明に覚えている。この出来事がラジオを聴くきっかけになったのだと、高架下をくぐりながら思い出した。『爆笑問題カーボーイ』を聴き始めて15年にもなる。T君とは中学を卒業して以来会っていないので15年顔を合わせていない。もうきっと会うことはないだろうが、元気にしているだろうか。しばらくはこの高架下をくぐる度にこの出来事を思い出す。彼が車に轢かれ、高齢者にお金をせびらなければ自分の人生にラジオはなかったかもしれないのだから。ちなみに今思い出しのだが、一度彼の家に遊びに行ったとき、本棚の後ろには『ToLoveる』が隠されていた。

あの時のiPod nanoは見つからなかったがiPod shuffleは見つけた