
4月9日(水)
とても明るくて暖かい朝だった。天気も雲ひとつなくまだ雪の残る山が綺麗に見えた。通勤時にいつも見かける散歩する犬もどことなくこの天気に喜んでいるようで弾むように歩いていた。小学校低学年くらいの男の子が石を蹴りながらゆっくり歩いていたので早足で追い抜かすと急に歩くペースを上げて抜かれまいと併走してきた。登校と通勤のデッドヒート。あまりにも小学生の男の子の行動として正しいような気がした。
駅のホームで電車の隙間にスマホを落としたまだ高校生になりたてのような女の子がいて、駅員が長いマジックハンドで拾っていた。駅のホームの柱に貼られているあのイラストそのものの光景だった。その様子を車内から10人くらいの坊主の高校生が椅子に座りながら体をひねって窓に張り付くように凝視していた。坊主10人に見つめられたら恥ずかしくて自分だったら泣いてしまう。女の子は不安げな表情をしていた。
職場の最寄駅でいつもすれ違う人がいて、その人のコートが冬から春仕様に変わっていた。シワもなく形も綺麗だったのできっと新品のコートで、この人は今朝、今日が春だと思ったから新しいコートを着ていこうと決めたのだと思ったら勝手に嬉しくなった。
仕事が終わってちょうど良い時間の電車がなかったので駅前から出ているバスに乗った。発車するのを待っていると家族らしき親子が乗ってきた。幼稚園児くらいの男の子と女の子がいて、2人は色違いのお揃いの帽子をかぶっていた。電車から降りてきたようで切符を大事そうに握っていた。男の子が切符を「俺のちっぷ!」と言っていて、妹が真似して「おれのちっぷ!ちっぷ!」とはしゃいでいた。父親が男の子には「切符ね」、女の子には「俺じゃなくてわたしね」と正していた。住宅街でその親子は降りてゆき、バスには自分ひとりだけになった。窓の外の馴染みのない景色をぼーっと眺めていると、住宅街に点在する桜の木が時折り目に入った。
なんだか春めいている日だった。