記録

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最近のこと

映画までの待ち時間が40分ほどあり、椿屋珈琲に入った。そこそこ混んだ店内でメイド服の店員が席へ案内してくれる。たしか果物がゴロゴロ入ったフルーツティーがあったはずだと思っていたが、縦長のメニューを渡された時にあれは星乃珈琲だったと気がついた。まあでもアイスコーヒーでいいやと注文して待っていると、同じタイミングで頼んでいた隣の席の人のアイスカフェオレがすぐに運ばれてきた。しかし、待てど暮らせどアイスコーヒーが来ない、まあ15分来ないこともあるだろうと、気長に店内のwifiに繋ぎNetflixで観たいアニメのダウンロードに勤しんでいた。喫茶店でアルバイトをしていた身としては、珈琲がちょうど切れてしまって落とすのに時間がかかる可能性も捨て切れないと20分は待った。いやでもさすがに映画の時間を考えるともう待てないぞと店員に、注文通ってます?と聞くと案の定通っていなかった。ごめんなさい、時間ないので注文通ってないなら帰りますと言うと、メイド服の店員が本当に申し訳なさそうに謝った。まわりの人がなんだろうとこちらをちらちらと見ていた。なるべく嫌な言い方はしないようにと何度も声のかけ方を頭の中で考えていたが、相手は必死に謝っていた。ちがうちがう、そんな雰囲気にしたいのではないのだ。なにより僕はノーパンである。ジーンズにノーパンだ。洗濯が間に合わずまあいいかと直にジーンズを履いてきたのだ。僕は特に謝罪をしてほしいわけでもないし、謝罪した側も申し訳ないなんて思うこともなくて、ただ注文が通っていなかっただけで、それだけなのだ。たったそれだけのことで誰かが不快な気持ちになるとか怒られるとかは違うのだ。お願いだからそんな謝る必要はないのだよと思いながらも口に出すことはできずお店を出て映画館へ急いだ。『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観た。テレビアニメから何十年も時間を飛ばした場所から物語が始まりそのやり方に早速涙ぐんでしまった。それからというもの何度も涙ぐみ、ラストに差し掛かるにつれ劇場中の至るところからすんすんと鼻をすする音が聞こえてきた。こんなにすんすん聞こえてくる劇場は初めてかもしれない。それはもう美しい物語だった。

ブログを書いていなかったこの2ヶ月のことを振り返るとなにがあっただろうか。9月の頭に半年ぶりに演劇を観た。ロロのいつ高シリーズ『心置きなく屋上で』だ。いつ高新作は2年ぶりらしく久しぶりの友達に会うかのようだった。コロナ以降初めて劇場で観た作品がこの作品でよかった。舞台に作られた屋上は、まぎれもなく屋上であったし、空を見上げ校庭を見下ろす彼ら彼女たちはほんとうにそうしているのだと思った。やはり演劇のこの感覚は代替不可能だ。演劇は、五反田団の『いきしたい』も観た。これがもう傑作であった。上演時間も1時間とちょうどよい長さだった。最初はなんてことない会話劇かと思っていたが、次第にとんでもないところへ辿り着いていた。いや、なんてことない会話劇であるはずもなく、前田司郎の天才的な巧みさがあるわけだけれども。当日パンフの文章も良かった。

生きるのは、何かを獲得していく過程ではなくて、何かを手放していく過程のように思えます。記憶だって生きてきた時間の分だけ持っているのではなく、両手に持てない分は、道の途中に落としていって、それが時々道に落ちているのを見つけたりもするけど、大抵の記憶は永遠に失われてしまって、失ったことすら思い出せないのに、特定の記憶だけが幅をきかせてこびりついてはがれないこともあって、ままならないものです。

自分は何かって考えるといつも、自分は記憶で出来ていて、その記憶は改ざんされたり紛失したり、作られたりして、結局、確固たる自分などないのではないかと思えて、そんなあやふやな自分が感じている愛だとか憎しみだとかって一体なんなんだろうと、そんなことばかりを考えている。 

まさに今回の作品で描かれていたことはこのことであり、 ああ記憶ってほんとうにそうだよなと思った。死に引っ張られていってしまう感じがどことなくウェストールの『禁じられた約束』っぽさもあった。

演劇はこれくらいしか観ていないがコロナの状況の中で観ることができただけでも嬉しい。本はあまり読むことができていなくて、唯一読んだのはこだまさんの『いまだ、おしまいの地』だ。こだまさんの淡々とした文章の中にある美しさとユーモアのバランスに夢中になって一気に読んだ。

漫画は最終巻が発売されたばかりの『A子さんの恋人』がそれはもう素晴らしかった。連休があったのでじっくりと1巻から読み直して最終巻に突入したのだが、改めて近藤聡乃はとんでもないドラマメイクの才能の持ち主だ。あらゆるエピソードの語りがその辺の脚本家の数倍上手い。すべての登場人物が愛おしくて仕方ないが、最終巻でのU子ちゃんのセリフの「私は全然かわいそうじゃない」には泣いてしまった。これから生きていくなかで支えになるような言葉だ。終わってしまった寂しさと同時にまだ彼女たちや彼らの人生が続いているような気がしてならない。漫画は他には和山やま『カラオケ行こ!』が面白かった。和山やま先生はいま1番新刊が読みたい作家だ。

ラジオはもう1ヶ月も前になるが『マヂカルラブリーオールナイトニッポン0』が期待通りの面白さだった。単発2回目なので早くレギュラーになってほしい。いや、レギュラーになるべきラジオだ。この面白さの感覚はアルピーのANN以来なので早くまた聴きたい。ここ数ヶ月あらゆるラジオが本当に面白かった。くりぃむしちゅーのANN復活であったり、爆笑問題の田中がコロナになり代打で劇団ひとり伊集院光アンガールズが来たり。なによりおぎやはぎは小木が癌の治療で休み矢作もコロナで休んで2人ともスタジオ不在で、その代打にアルピーやハライチ、爆笑問題ザキヤマだったりともうたまらなかった。そしておぎやはぎ復活の9月10日の助っ人全員集合のオギーナイトニッポンには笑いながら感動した。とんでもなくくだらなく、文脈がわからなければなにも面白くないのだけど長年聴いてきた身としてはとにかく良いのだ。GERAも色々と聴いていて、最近はスーパー3助とほしのディスコの『サウナミュージック』の更新を毎週楽しみにしている。スーパー三助のルーザー感が良い。あと、声がさらばの東ブクロに似ている。さらばのラジオのタダバカも毎週本当にくだらなくて面白い。リスナーの高校生に無理やりコンビを組ませて漫才をさせたりしているのだ。

アニメは『僕のヒーローアカデミア』を2週間で4期まで一気に観た。こんな面白いものをどうして見逃していたのだと後悔しかない。『鬼滅の刃』ももちろん面白いが異常なまでの流行り具合に個人的にはヒロアカを推したくなる。おすすめされた『メイドインアビス』も観た。これも面白かった。

年内に引っ越しをしたく物件探しをしている。今は通勤に1時間半もかけて隣の県まで通っているので、もう少し近いところに住もうかと思う。金木犀の香りもどこかへ消え、上着を羽織らなければ外も歩けないような季節になってきた。年を越す前に良い家と良い街を見つけたい。