記録

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目の前には水蒸気

起き上がる気力もなく、ベッドで横になり、枕元に置かれた加湿器から白く水蒸気が立ちのぼるのをぼーっと見つめている。この状況、短歌とかで詠まれてないかと思ったがまったく思い出すことができない。

2日前からインフルエンザにかかってしまった。アルバイトを週1にすると宣告されたその日の夜に、途端に熱が上がり一晩中眠りにつくことができなかった。目をつぶり、また目を開けて、数時間寝たかもしれないと思い時計を確認すると30分しか経っていないというのを何度も繰り返しなんとか朝を迎え、ふらふらしながら病院へ駆け込んだ。安定の1時間長の待ち時間である。壁に体をもたれさせながら名前を呼ばれるのを待つ。かわるがわるに現れる年配の患者さんの受付での長い世間話に苛立ちを覚えてしまう。こんな調子で医者にも話をしてるんだろうなあ、と自分の具合が悪いばっかりに嫌な方向へ考えが及ぶ。早く診察してくれ、早くインフルと診断してくれ、と切に願っていると名前を呼ばれ診察室へ行く。症状を説明するとすぐに検査。あっという間にインフルの診断が下された。インフルの患者はベッドに寝かせてもらえるらしく、横になってしばらく休んでからそこで処方箋とお会計もしてもらえた。いやーやっぱり具合悪い人には優しいなあなんて思っていたが単なるインフル患者の隔離であったことに2日経った今になって気づいた。どうしようもなく具合の悪い時は、どんなことでも優しさのように思えてしまうのだ。薬局で薬をもらい、スーパーでレトルトのおかゆを買い込んで家に帰り、薬を飲んで一日中寝ていた。今日はまだ熱はあるようだがだいぶ楽になった。昨日買ったおかゆを食べて、ずっと横になったまま1日を過ごした。 

先ほど書いた今の目の前の状況に似た短歌をどうしても思い出したくなり、「病床 短歌」などと必死の検索を試みると見事に引っかかってきた。

瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり

そうそうこれだこれだと、ベッドの中でひとり合点がいく。しかし、僕の目の前には藤の花などない。この歌を詠んだ時の正岡子規の姿だけがなぜか頭に張り付いていたのだ。ちなみに今の僕の目の前の景色を正岡子規風にアレンジするとこうなる。

部屋の隅ゆっくり昇る水蒸気天には届かず溶けて消える