記録

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特別でもなんでもない日のショートケーキ

面接が終わり、電車の中にいる。数日前から馬鹿みたいに緊張していたのに、面接時間は7分で終わった。きっと落ちているだろうし、早くスーツを脱ぎ捨てたい。面接でよく言われるのは、落ち着いてるね、という言葉だ。落ち着いているのではない。必死に落ち着こうとしているのだ。でもそんなこと向こうには関係なくて、落ち着いて見えているのならばこちらの勝利なのか。しかし、本当の落ち着きではないので、質問にはあたふたして冗長に話してしまうし、沈黙も生まれてしまう。いっそのこと、緊張丸出しで可愛げのようなものを見せた方が印象がいいのかもしれない。でもそんなことできないなあ、まともなフリを必死にしようとしてしまうなあと電車の中で内省する。

駅のホームで盲導犬を見かけた。駅を出たら、今度は首の周りが虹色に輝く柴犬がいた。昨晩、お風呂の電気が切れてしまったのを思い出してスーパーで電球を買って帰る。昨日は暗闇の中で髪を洗い体を洗った。なんの支障もなかった。ずっと行こう行こうと思っていたがなかなか入れずにいた近所に最近できたケーキ屋さんに行った。着慣れないスーツで500円のショートケーキを買った。帰宅してお風呂の電球を取り替えると、これでもかと明るくなって、お風呂場の汚さが目立った。夕飯に、牛肉と玉ねぎを甘辛く炒めたものと、春雨スープを作って、『ベター・コール・ソウル』シーズン4の第8話を見ながら食べた。『ベター・コール・ソウル』は全シーズンを通して、ワンシーンワンショットの演出が冴え渡っていて痺れっぱなしだ。あと数話で見終わってしまうことが惜しくて数日に1話のペースで見ている。食後に、ショートケーキを食べた。とびきり美味しいわけではなくて、ショートケーキ以上でも以下でもなかった。今日は、特別なことなどなにもないのにケーキを食べた日だ。なんでもない日こそ素晴らしいのさ、といった日常への尊さを感じているわけでもなくて、いや、本当はそんな心持ちで毎日を過ごせたらこの上ないのだけれども現状は難しくって、ただケーキを食べたくて食べただけだ。24歳の男が、面接ダメだったなあなんて思いながらショートケーキを頬張っている夜もあることをどうか忘れないでほしい。

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