記録

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尾道小旅行記と一週間のこと 9月4日~9月10日

月曜日

朝からアルバイト。アルバイト先の社長というか代表の編集者の方に、「ペンギンズのオールナイトニッポン聴いた?」と聞かれる。40代の方なのだが深夜ラジオ好きという共通項でいつも盛り上がることができる。ちなみにその方が今ハマっている劇団がナカゴーということなのでまるで信頼できる大人の代表例のようだ。面白い演劇ない?と聞かれたのでロロをプッシュしておいた。夜は阿佐ヶ谷でロロ納涼ライブがあったのだが、アルバイトの時間の都合で間に合わず。ライブに間に合わなかったくやしさなのか帰りの電車のなかで、ふと明日旅行に行こうと思い立ち、新宿の金券ショップで2日ぶんの青春18きっぷを買う。家に帰り、どこに行こうか考える。POPEYEの本屋特集をぱらぱらめくり、行き先を尾道に決め、早速宿を予約した。

 

火曜日

朝、3時半に起きる。旅行の支度をし、4時50分の始発で出発。一旦、東京駅へ出てから東海道本線で西を目指す。何度も乗り換えを繰り返す。名古屋、京都、大阪、神戸、姫路、倉敷などの観光地はすべて無視し、14時間ほどかけて広島県三原市にたどり着く。これまで何度も18きっぷで旅行をしてきたが、最長の乗車時間だった。三原は尾道と二駅離れている。本当は尾道に泊まりたかったのだが宿が見つからず三原にしたのだ。19時前に着き、ちょうど夕食の時間だったため、三原の名物だというタコを食べに行く。港のすぐ近くにある「蔵」という地元の日本料理屋へ。店構えからして、タコ食べれます!というアピールがすごい。

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タコだらけのちょっとしたコースを注文した。まず最初に出てきたのが、タコの卵の煮付けのようなものとタコの茶碗蒸し。

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タコの卵は初めて食べたのだが味わったことのない食感でとても美味しかった。次に出てきたのは、タコの刺身。

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こんなタコ食べたことないというほど美味しかった。ほどよい弾力がありながら、ふわふわしているのだ。そして最後に出てきたのがタコの釜飯。

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もちろん美味しいに決まっている。24時間前の自分は、東京から遠く離れた遠方の地でタコばかり食べまくっているとは思ってもいなかった。タコに満足し、この日泊まる宿へ。前日に探した素泊まり3000円弱の格安旅館で不安だったがなんの不満もなかった。ただ、部屋がめちゃめちゃ友達の部屋っぽい雰囲気だった。

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掛け布団、枕、敷き布団すべての色の統一感のなさよ。もしこの部屋が友達の部屋だとしたら、絶対ベッドの向かいにテレビがあって、ベッドに座りながらテレビゲームをやるか寝転がりながら漫画を読むだろう。ポテトチップスなんかを広げながら。お風呂に入り、一日の移動の疲れを癒したいところだが、夜23時、ひっそりと宿から出る。電車に乗って向かった先は尾道だ。電灯だけがいやに明るい誰もいない尾道の商店街をぐんぐんと進んでいく。

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縁もゆかりもない、しかも誰もいない静かな場所を一人歩く時の何とも言えない充足感と寂しさは言葉にできない。来年からは働き始めるわけで、こんな思いつきでいきなり遠くに来れることもないだろうなあと感慨深くなる。そんなことを考えながら歩きたどり着いたのが、今回の旅の目的とも言える「弐拾dB」という古本屋である。

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この古本屋は、夜23時~28時が営業時間という深夜しか開いていない元医院を利用した書店だ。深夜しか営業していない古本屋なんて、ロマンチックにも程がありませんか。しかも内装は元医院だなんて。広いとは言えない店内だが様々なところに本が置かれていた。なによりも、窓の外から虫の声が聞こえてくるような静かな夜に本を選ぶことのできる空間の素晴らしさはたまらないものがある。本を何冊か購入した。店主の方と少しお話しをし、今朝始発で東京から来たと話すと、せっかくだからと特製の栞を付けてくれた。もっと居たかったが終電で三原に戻らなければいけないので、名残惜しさを抱えたままお店をあとにした。24時過ぎに宿に帰る。これがもらった栞と本の包装紙である。

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包装紙にはお店のハンコが押してあってとても素敵だ。買った本をぱらぱらと読みながらこの日は眠りに落ちた。

 

水曜日

朝、8時ごろに起きる。朝ごはんを買いに街へ出る。三原でそこそこ有名だという「おはぎの店 こだま」でおはぎを買い、宿で食べた。夜は暗くてよくわからなかったのだが、宿の造りが意外にも凝ったものだった。

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建物が口の字で、その中心に庭があり、その周りを囲むように各部屋があるのだ。友達の部屋みたいなどと思ってしまったがこれで3000円ならとても良い旅館ではないか。

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廊下も見ようによっては高級旅館の趣さえあるように思えてくる。9時過ぎに旅館を出て、昨日ぶりの尾道へ向かった。尾道といえばもちろん、坂と海の街である。ここからは、尾道っぽい写真を貼っていく。

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この細い道をおばさんが煙を出しながらバイクで颯爽と駆け抜けていってかっこよかった。

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そして、尾道といえば猫である。この後ろ姿の可愛さよ。男ひとりが猫にカメラを向けているという状況に我ながら気持ち悪さを感じながらも撮らずにはいられない。

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石の縁にあごなんか乗せちゃってるんですよ。

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もはや石の階段と同化している猫。

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こんな感じで至るところに猫がいるわけですが、住宅の玄関で家猫のプライドのようなものを垣間見た。見よこの顔と風格を。

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尾道といえば忘れてはならないのは、大林宣彦作品の尾道三部作だ。もちろんロケ地巡りをした。まずは、『転校生』のあの階段。

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ここは映画がモノクロからカラーになるシーンの場所。

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自転車で駆け上がるシーンの陸橋。

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時をかける少女』で使われた時計。

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こんな感じでロケ地巡りをしていたわけですが、よくある観光客向けのロケ地マップのようなものは存在しないのです。以前は色々な場所にここがロケ地ですよといった標識もあったらしいのだが、今はなにもない。ネットの情報なので確かなのかはわからないが、住民たちが観光客を迷惑に思い、ロケ地情報を公表しないようにしたらしい。その代表のような場所が『時をかける少女』で有名になったタイル小路である。つい二年ほど前は、まだタイルが敷き詰められていたらしいが今ではコンクリートが流し込まれて跡形もなくなっていた。

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また、主人公が誰かにつけられるシーンの場所もタイル小路として有名であったのだが、そこはもはやただの廃墟と化していた。検索して当時の写真を見ればその違いに驚くと思う。

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地面にうっすらとだけ当時の名残があった。

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この状況に悲しくなりもするが、住民からしたらあんな狭い路地に人が大勢押し寄せてきたら迷惑に決まっているし、うちの家のすぐ近くにポケストップがある身としてはその辛さがよくわかる。坂の上り下りばかりで疲れたので、幼稚園を改装して作られた休憩所で名物だという「マルゴサイダー」を飲んだ。このビンがもう製造されていなくて珍しいらしい。

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そんなことよりも、ビンの大きさからしてどう考えても一人でコップも使わずに直接飲む量ではない。小ぶりのビール瓶ぐらいある。店員にごり押しされたから飲んだものの、かなりきつかった。しかも、おすすめだとごり押ししていた割りに、周りの観光客は誰一人として飲んでいない。みんな、はっさくジュースを飲んでいた。初老の夫婦はまだ許すけども、4人組の大学生グループっぽい人なんか全員はっさくジュースで、せめて1人ぐらいはサイダー飲んでくれと思った。もしかしたら、「うわっ、あいつ一人で馬鹿みたいにでかいサイダー飲んでるよ。馬鹿みたいにでかいサイダー飲んでるって思われたくないから無難にはっさくジュースにしとこ」みたいなが雰囲気が店内にあったのかもしれない。よくわからない自意識を発動し、そそくさと休憩所を出た。この後も適当に散策をして、お昼は尾道ラーメンを食べた。あとはとても可愛い尾道プリンも海沿いのベンチに座りながら食べた。

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尾道を満喫し、東京に戻るべく再び青春18きっぷで電車に乗る。5時間ほどかけて京都へ着く。ちょうど19時ぐらい。友達と会い、インド料理屋「Thilaga」へ行く。

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ミールスとチキンビリヤニを食べた。

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どちらもとても美味しかった。22時の夜行バスで東京に帰る。夜行バスではまったく寝れないタイプなのだが旅行の疲れのおかげで、京都から東京に着くまで一度も起きずに眠れた。休憩が何度かあったはずなのだがそのことさえ気づかなかった。

 

木曜日

朝、5時過ぎに東京駅で降ろされ、家に帰る。足を伸ばしながら横になれる幸せを噛み締めながらもうひと眠りした。 午後、新宿へ『新感染 ファイナルエクスプレス』を観に行く。エンタテインメントに振り切った韓国映画は本当に面白い。ゾンビをぶん殴るの最高ですね。

 

金曜日

朝から夕方までアルバイト。夜は坂元裕二朗読劇『不帰の初恋、海老名SA』を観に行った。『往復書簡 初恋と不倫』の出版記念企画。会場であるテアトル新宿の劇場に入ると、学校の体育館で聞こえるような音が鳴っていた。体育館の床でボールが弾む音、キュッキュッという運動靴が摩擦によって床とこすれる音など。肝心の朗読はテキストが良いのは当たり前なわけだけども、松岡茉優と太賀の、芯があるようで、しかしどこか危うさを持った壊れてしまいそうな声がとても素晴らしかった。やはり、松岡茉優演じる三崎明希のこの部分は胸が震えた。

わたしの初恋は、わたしの日常になりました。例えば長めで急めな階段を降りる時。例えば切手なんかを真っ直ぐ貼らなきゃいけない時。例えば夜寝る前、最後の灯りを消す時。日常の中のそんな時、玉埜くんと繋いだ手を感じているのです。あの日バスに乗った時も君の手を感じていました。支えのようにして。お守りのようにして。君がいてもいなくても、日常の中でいつも君が好きでした。

 松岡茉優の語りは、坂元裕二ドラマの発話や台詞回しそのものだった。ceroの「Orphans」を聴きながら帰った。どちらもサービスエリアが出てくる。

www.youtube.com

とても良い夜になった。

 

土曜日

横浜STスポットで、ゆうめい『弟兄』を観た。作演出の池田亮は、ハイバイ岩井秀人の弟子的存在でもある。池田亮が経験した壮絶ないじめ体験を基にした演劇は、面白いという表現が正しいのかはわからないがとても切実で素晴らしい作品だった。しかも、単に事実を再現しているのではなく、演劇として成り立っているの良い。見せ方、構成の上手さだろうか。こういった作品を観た時、過去の出来事を見事に「昇華」していると評したくもなるが、なるべくそういった単純さから抜け出したいと思う。ここでは直接関係ないかもしれないが、10代の時に6年間引きこもっていた髭男爵の山田ルイ53世が新聞にこのようなことを書いていた。

僕の6年間を、「でもその6年間があるから今がある」と美しい話に落とし込みたい人がいるかもしれません。だけど裏を返せば、そこには「意味がないとだめ」という意識があります。そんな意識が、実は問題だと思います。みんなが素晴らしい人生ではない。無駄や失敗にまみれた人が、ただ生きていてもいい。そこに善悪はない。僕はそう思います。 

あらためて良いこと言ってるなあと思う。「昇華」の話に戻すと、「~だから~である」みたいな考えに 陥らないようにしたいということです。

この日のゴッドタンがめちゃめちゃ面白かった。ゆにばーすの川瀬名人一人で30分。これは売れる気配しかない。ウエストランド井口も面白く、みんな売れて欲しい限り。

 

日曜日

新宿眼科画廊で小田尚稔の演劇『悪について』を観た。とても素晴らしく、じわじわと良さが染みてきた。独特の語りが観客を惹きつけ、具体的な地名や固有名詞を使うことによって、演劇という虚構と現実の距離を縮める。なにか大きな物語があるわけではないのに2時間まったく退屈することがない。時間が経てば経つほど傑作なのではないかと思えてくる。ちなみに劇中で銀杏BOYZの曲が使われていたのだが、前日に観たゆうめいの『弟兄』では椎名林檎の曲が使われていた。なんとなく帰りは新宿から高円寺まで歩いて帰った。

大森靖子がライブでの出来事で炎上していてそのことについてブログで書いていたのだけど、その文章の最後のあたりの台詞回しというかリズムが坂元裕二っぽさがあった。満島ひかり瑛太に発話してもらいたい。

 あのね、わからなくてもいいんですけど、まあわからないとおもうんですよ、どんな気持ちかなんて、自分の人生をかけてやっていることがどんなに大切かなんて他人に知ったことじゃないですよ、それを茶化されることがどんなに地獄か、とかべつにわかんないしスルーすればいいじゃん、ってなっちゃうと思うんですよ。いいんですよわかりあえなくて。一生わかんないだろうから。でもわかりたくてわからないっていう可能性も1パーセントはあると思うので、できるだけ丁寧に、かきましたけど、私は私だからどうしても私としての感じ方しか話せないので。すべての人が言葉を発した時点である程度事実は歪曲してしまう。私は強いんで、気持ちが、だからとても、わたしの話になってしまうんですよ。でもなるべく、できるのなら、わかってほしいところがある。

 今週はとても濃い一週間だった。